選挙もお出かけの理由になる
「やよい、あの銀色の箱にこの紙を折って入れてもらっていい?」
「わかった〜」
我が家から歩いて10分ほど歩いたところの中学校の体育館。昼の時間で投票者もまばらだ。
家族でおでかけ、といっても選挙に出かけただけだったが、それでも5才児にとっては家族全員で出かけられることが楽しいらしく、体育館の中をぴょんぴょんかけまわっていた。
「弥生、走らないでね。他の人にぶつかっちゃうよ」
いつもの注意喚起をしながら投票用紙に記入。妻も隣でどこかの党に記入しているようだ。
この一票で歴史が変わるなんて思ってはいなく、選挙という名目で家族で出かけられたことに今は感謝をしている。
弥生は銀色の投票箱に紙を入れると、
「これでおっけーだね!」
と笑った。会場にいた選挙関係者も我が子の顔を見て、自然と顔がほころんでいた。こどもには大人を笑わせるチカラがある。
家族が入りやすいお店
会場をあとにする。時間は昼の12時を回っていた。さてお昼ご飯はどうしたものか…
「お昼、どうする?」
妻が聞いてくる。今から帰宅して調理するとなるとお昼の時間も後ろ倒しになってしまう。
「近場で食べちゃおうか」
「そうね」
「やよい、ラーメンでいい?」
「らーめんすきー!」
妻も弥生も僕の提案に同意した。
中学校の近くには「田所商店」というチェーン店のラーメン屋がある。味噌ラーメン専門店であり、北海道味噌、伊勢味噌、信州味噌、九州味噌…さまざまな味噌ラーメンを選択できる。
チェーン店だからこその賛否がある。僕は味噌自体が好きなので、この店は好きである。今日も多くのお客さんで行列をなしていた。
「やよい、キッズラーメンってのがあるよ。これにする?おもちゃついてるって」
「やったぁ!」
家族の食券を出してしばらく店内を見渡す。
家族連れにとって、子供が食べやすいメニューがある、というのが外食店選択の大きな理由になる。小さい子供ができてからは、食べログ4点がついていたとしてもカウンターだけの店には行くことができなくなっていた。テーブル席が多く存在する田所商店もそこをしっかり把握しているようで、店内は家族連れも多くいた。
実は貴重な家族みんなでの食事
「パパ、家帰ったらなわとびしよう?」
「いいね。やよいは何回くらい飛べるんだっけ?」
「3かいくらい」
「すごいじゃん。帰ったら見せてよ」
「いいよ、パパも一緒に飛ぼうね」
弥生との親の会話があれど、夫婦間の会話は相変わらずほぼない。「何党に入れた?」などの会話すらなく、ただ時間が過ぎていく。いつになったら昔のように会話ができるようになるのか、その未来はまだ見えない。
「お待たせしました。北海道辛みそ、伊勢みそ、キッズラーメンです」
湯気が立ち上る3つのラーメン。弥生も
「おいしそう!」
と目をキラキラさせながら丼を見つめている。
「じゃあ、いただきまーす!」
3人でそろっての食事は、今は日曜日しかすることができない貴重な時間だ。会話はさておいて、この限りある空間をいつまでも大切にしたいと、妻と子のラーメンをすする姿をやきつけようと、僕は麺をすすることも忘れて彼女たちを見つめていた。
続く
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