晩御飯の前に…
「ごはん食べる前に、大きいお風呂入りに行こうか?」
「いくー!」
部屋のタオルを一式持って、大浴場のある最上階へ。
「ねぇパパ、このペッタンしているスリッパで、そとあるいていいの?」
部屋内にある屋内用のスリッパの事だ。
「このスリッパはね、部屋の中用のスリッパなんだ。だから基本的には外では履けないんだ」
「そうなんだ~」
いつもは「なんで?」と掘り下げる。今回はなぜか素直に「そうなんだ~」と可愛らしい返事をする。
ビジネスにおいて「なんで?」を掘り下げることは大切だ。俗にいう「なぜなぜ分析」である。これを実施することで、物事の問題の本質を捉え、課題解決に向かう、というロジカルな手法である。
5才のこどもは、そんなことは考えてはいないだろう。単純に自分自身が解決したいのだ。それでも子供に分かりやすく説明しようとなると、ビジネスにおいての「なぜなぜ」よりもはるかに難しい。
17時台のホテルの大浴場はほとんどお客さんがいなかった。
5才児とはいえ、性別は女性。女の子のカラダを見ず知らずの男性に見せるのは、多少なりともリスクとなる。ほぼ貸し切りの状態の浴室で、僕は少し安堵した。
弥生はそんなこともお構いなしにバシャバシャと、まるでプールで遊んでいるかのように大浴場を楽しんだ。彼女も大きくなったら、一人でもしくは友人とお風呂を楽しむことだろう。
横浜といえば…
18時にもなると腹時計は正確で、空腹を知らせる音が鳴る。僕と弥生は外に出て、みなとみらいから馬車道のエリアを散策していた。
「お腹空いたね。弥生、何食べたい?」
日帰りで来られるとはいえ、せっかく横浜に来たのであれば「魚」が食べたい。僕はそう強く願っていた。美味しそうな店が立ち並ぶ。鉄板焼きでも良いかな?ワクワク心を躍らせていた。
そんな時、弥生が叫んだ。
「とんかつ!」
僕は愕然とした。横浜に来てとんかつだと!?横浜まで来たら魚とか、海鮮系を食べるのが通なのではないか!?海なし県にいつもいる僕にとって、新鮮な海の幸を食べられるチャンスなんてそうそうない。
「と、とんかつ?弥生、せっかく海の近くに来たからさ、お魚食べたりしない?きっと埼玉のお魚より美味しいよ?」
それに対して、彼女はこう答えた。
「とんかつ!!」
…彼女の意志はどうやら固いようだ。僕は少ししょぼんとしながら街並みを歩いた。
テキトーに入ったとんかつ屋さんは、思った以上の味だった。後から調べてみると、どうやら横浜はとんかつ激戦区であることが判明した。
ぶあついロース肉がパクパクと腹の中におさまる。なかなか普通のとんかつ屋さんにはないような代物だった。
5才の弥生も、大きな豚ロース2切れをペロリと平らげる。
僕の中の固定概念が、とんかつという選択肢を無くしてしまっていたのだ。そういう意味では、「横浜と言えば…」のような予備知識を持っていない5才児の発想に軍配が上がったことになる。
「パパ、こんなに美味しいとんかつなかなか食べたことなかったよ。弥生がとんかつを食べたいって言っていたおかげだね。弥生、ありがとう」
「パパ、ごはん食べ終わったからデザート食べていい?」
このどことなくちぐはくな返答に笑いながら、僕は首を縦に振った。
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続く
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