老若男女楽しめる横浜
手作りカップラーメンを2つ抱えた弥生は駆け足でコスモワールドへ。観覧車の乗ったエリアである。
このエリアにいれば、一日遊び続けることができるな、と感じる。コスモワールドだけでも半日は過ごすことが出来るし、赤レンガや山下公園などののんびりする場所もある。横浜が観光客にとっても、居住者にとっても人気スポットであることが改めて分かる。
20代の頃は、当時付き合っていた彼女と横浜に何度も遊びに来たことがある。山下公園のベンチでのんびり過ごすだけでも楽しかった。
40才になり、今こうして5才の愛娘と一緒にのんびりと楽しめる。きっと生きていれば、60代70代になっても楽しめる街なのだろうと、しっぽりと感じた。
5才児、絶叫系に乗る
「あれのりたい!」
弥生が指を差したのは絶叫系のウォータースライダーだった。まさかの絶叫系好きか?それともただの興味本位なのか?僕は驚いてしまった。
「弥生すごいね。結構こわいかもだけど大丈夫?」
「だいじょうぶ!」
絶叫系に年齢制限はないらしく、身長が110cm以上であれば問題はないらしい。
数か月前に測定した結果では確か106cmだったような記憶が…改めて身長を測ってみる。
「このラインまでに到達していれば大丈夫」というラインをギリギリ越えることができた。いつのまにか110cmを越える慎重になっていたようだ。
自分が小中学生の頃に住んでいた社宅には、柱に線が刻まれてあった。僕の身長の足跡だった。父親が僕の身長を記録していたのだ。
父と母は今でもすれ違っている。僕は父のようには決してならないと、父の逆の道を歩むよう努めてきた。だが、気が付けば父と同じルートを辿っているような気がする。すれ違いを避けようとすればするほど、夫婦の距離感がどんどんと離れていく感覚がある。不思議なものである。
「ねぇパパ、進もう!」
…弥生の言葉にハッと我に返る。急流すべりの行列が前に進んでいた。僕は慌てて歩を進める。
この急流すべり、クリフ・ドロップは小さな子供も楽しめるアトラクションである。身長が110cm以上あればどの方でも乗車可能だ。
特徴的なのが、「絶叫する声をスコア化」するところである。騒げば騒ぐほど点数が高くなる。高得点をたたき出すと、周りからは歓声が上がる。声を出すことを恥ずかしくさせない、面白い試みである。
「やよい、いっぱい声を出せば点数が出るんだって。頑張って大きな声出してみようね」
「うん!」
「よし、並んでいるうちに練習だ。一回やってみよう。ワー!!」
「わー!!」
周りから微笑ましい視線を感じる。5才児と一緒にいれば、恥じらいを一切感じることはない。
スコアボードには、700点台、600点台と、高い点数が並んでいる。
大きな声を出しているお客さんですら400点台がやっとなのに、700点台を出すお客さんは一体どんなシャウトをしているのだろう。
いざ、急降下
自分たちの番が来た。弥生は颯爽と船に乗車。僕は彼女を抱え込むように後ろに座る。
ちゃぷちゃぷと波に揺られ、ゆっくりと上昇する。ディズニーランドのスプラッシュマウンテンを思い出す。小学生の頃でも怖かった急降下のアトラクションを、わが娘は怖いもの知らずで乗り込んでいる。とても頼もしい。
頂上に向かって、ガタガタと音を鳴らしながら船が動く。向こう側に見えるのは空だけだ。レールも途中で切れている。この風景がまた緊張を高めてくれる。
「弥生、いよいよだぞ。声いっぱい出そうね」
「きんちょうする~!」
レールも一切なくなった。船が空に投げ出された感覚。かと思ったら、ゴトンと船が平面に戻る。なだらかな下り坂になっていく。少しずつスピードが上がってくる。目先10メートルには何も見えない。
船がガクンと下を向く。吸い込まれるように急降下。スピードがぐんぐんあがって、むしろ時が止まっているかのような瞬間だった。
「わーーー!!!!!」
僕は思いっきり叫んだ。だが数日前に風邪を引いていたこともあり、喉が痛くてうまく声が出せない。こうなったら、弥生の絶叫に頼るしかない。
…
一瞬の急降下が終わる。水平に、穏やかに船は出口へ向かう。
スコアボードに点数が表示された。
42点
おそらく、今日の来客の中で最も低いだろう点数だった。
「あー、全然点数出なかった…弥生、声出せた?」
「…」
弥生からは返事がない。身体が硬直している。
「弥生、どうだった?」
「…こわかった」
彼女の身体が少しだけ震えている。どうやら楽しそうだというイメージから大きくGAPがあったようだった。
「すごいね!パパ、こういうの、実はもっと大きくなってからじゃないと乗れなかったんだよ。かっこいいよ、弥生」
「こわかった~。パパ、ぎゅーして」
「よしよし、すごいぞ」
泣きべそをかいている弥生を抱きしめる。この経験がトラウマになるか、糧となるか…彼女の今後に期待しよう。
続く
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