第51話〜狭山スキー場その3 スノーパーク〜

家族

「うまれてはじめて」

その第一印象は良ければ良いほどいい。彼女にとって、大人になった時に「またやりたい!」というきっかけになれれば良い。そのキッカケを作ることが親の使命である。

野球場のとなりの屋内スキー場

大人になると、移動時間1時間半なんてあっという間だ。小学生高校生時は、30分ですら移動時間や待ち時間が苦痛で仕方がなかった。

「あと1時間もある」から、「もう1時間しかない」という考え方に変わっている。人生があと半分切っているという認識があるからなのだろう知らない道を眺めながらドライブしていると、あっという間に狭山スキー場に到着した。

目の前に巨大なドームが現れた。西武ライオンズの本拠地の、ベルーナドームだ。

「ほら、弥生。あそこに大きい建物があるよ。野球をする場所なんだよ」

「ふぅ~ん」

野球にほとんど興味のない弥生から返ってきたのは、明らかに空返事だった。駐車場からベルーナドームに向かった途中に、狭山スキー場がある。

「当日券を受付で買うと並ぶから、事前にオンラインチケットで購入して準備しておいた方が良い」

という事前情報はきっとハイシーズン時の情報で、11月のしかも平日の水曜日ともなると、受付で並んでいるお客さんは誰もいなかった。

スノーパークなら1,000円で1日遊びたい放題

今回、スノーボードやスキーをする予定はなかったので、「スノーパーク」という子供たちがソリをしたり滑り台をしたりすることができるスペースへの入場券だけ購入していた。1人1,000円。

スキーウエアやブーツがなくても入場できるので、普段冬に来ている防寒着や手袋、靴着用でも問題ない。ほぼ普段着でOKだ。

だが娘の弥生にはあえて2,500円でレンタルしたスノボーウエアを着用させた。理由は簡単である。「対妻用」である。笑

すぐにスノボウエア姿の娘の写メを妻に送った。案の定、「かわいい」という返信があった。妻が喜んでくれるなら、必ずしも借りもしなくてもいいウエアレンタル代2,500円なんて安いものである。

「うわぁ、雪がいっぱいある!」

室内外含めてスキー場が初めてである弥生ははしゃいでいた。坂のてっぺんから次々と滑走してくるスキーヤーにも興味津々だった。

「弥生、今日はここで遊ぶよ。まずはソリを借りようか」

ソリはレンタルがある。1人用と2人用で、それぞれ終日200円、300円で借りることができた。

ちょっぴりの「こわい」を乗り越えて…

「まずはパパと一緒に滑ってみよう」

「え、こわい」

「大丈夫だよ、そんなにスピードは出ないはずだから」

スノーパークのてっぺんからソリで滑走できる距離は、ほんの50メートルほどだ。弥生を抱えるようにソリに乗り込み、雪をかき分ける。

ゆっくりと下るピンク色のソリ。穏やかに滑っていき、ちょっとスピードが出たくらいでゴールとなる。

滑走しすぎないように設置された緑色のフワフワとしたスポンジ状のとしたブロックストッパーにぶつかり、

バスン

と音を立てる。

「どうだった?」

弥生に感想を聞く。

「たのしい!もうひとりですべれる!」

一度試して大丈夫と思ったのか、一人で果敢に雪坂を登っていく。

「パパは、したでまっててね~!」

ソリのゴール地点にスタンバイする。すかさずiPhoneを構え、彼女の1人ソリのデビューを見つめる。弥生は大きく手を振ったかと思うと、颯爽とソリに乗り込む。ゆっくりとしたソリが僕の方に向かってくる。

「わ~!!」

はしゃいだ悲鳴とともに弥生が近づいてくる。この一瞬も、あっと言う言う間に思い出になってしまう。色褪せないようにしっかりと動画と脳裏に焼き付ける。

バスン

緑色のスポンジブロックに衝突してソリが止まる。

「…もういっかい!」

「意外に汗かいたりするから、お茶とかたくさん飲むんだぞ」

子供の事を想えば思うほど口うるさくなるのは、「親になるということ」の一貫なのだろう。そんな父親の言葉が聞こえているのだろうか。返事もろくにせずに、弥生は再び雪の坂を登り始めた。

続く

やまだ のりお

◆所有資格◆
薬剤師
簿記3級
FP3級
 
◆経歴
前職:東証プライム上場企業 営業職

現職:サービス業 エリアマネージャー
 
第一子誕生をきっかけに転職。
仕事と家族と充実した毎日を過ごしています!
 
資格と経験を活かしつつ
健康・お金・転職・マネジメント
などの情報を発信しています!

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