お出かけは常に発見がある。好きな人と新しい発見をすると、それがどんなものであろうと一生の宝物になる。
スキーを楽しんだ後は…
「たのしかったぁ!」
5才の長女弥生は満面の笑みで車に乗り込んだ。長靴も持たせず普段のスニーカーで雪遊びをさせてしまったせいで、スニーカーも靴下も水浸しになっていた。
「靴の中濡れてて気持ちわるくない?車の中なら裸足になって良いよ」
「やったぁ!」
靴と靴下を座席の下にポイポイ投げる。120cmにも満たない身長の彼女は、素足になりスッキリしたかのように両足をぶらぶらさせていた。
「いっぱい遊んで汗かいたから、大きいお風呂やさん行きますか」
「いぇ~い!おおきいおふろやさ~ん♪」
鼻歌を歌いだす弥生。彼女も僕と一緒で、大浴場が大好きのようだ。
だが悲しいことに彼女は女性。小学生に上がったら、男性の混浴は卒業するつもりだ。彼女と大きい風呂屋さんに入れるのもあと1年ちょっと。貴重な時間は刻一刻と過ぎていく。
銭湯だと思ったらパチンコ屋だった!?
遠出をしたら楽しみなものの一つが、行ったことのない大浴場である。狭山スキー場の所在地は所沢。「所沢 銭湯」と検索し、何件かヒットしたうちの1つに車で向かった。
行きとは違う道を車で走る。住宅街や飲食店は、ありきたりな風景かもしれないが、知らない街のそれは僕にとってとても新鮮で、外出の気分を高揚させてくれる。
iPhoneのナビゲーションに従って着いたのは、なんとパチンコ屋だった。
「…パチンコ屋?」
僕はぎょっとしてしまった。
「パパ、なぁに?」
弥生が隣で首をかしげている。
「うんとね、お風呂屋さんに来たつもりなんだけど…パチンコ屋さんに来ちゃったみたいなんだ」
「パチンコってなに?」
「パチンコってのは…身を亡ぼす遊びってところかな?」
「みをほろぼすって?」
「うーん…さようならしちゃうことかな?」
「もうパパとママにあえない?」
「うん、会えなくなる」
「えぇ~」
そんなやりとりを繰り返しながら車をぐるぐる巡回させる…すると、
「…あ、お風呂屋さんあった!パチンコの上の階にある!!」
なんという景観だろう。まさかパチンコ屋が1階、お風呂屋さんが2階にあるなんて…色んなスーパー銭湯に足を運んだが、こんなお風呂屋さんは初めてである。
「これは、入りづらいお風呂屋さんだな…」
近くに代わりのお風呂屋さんもないため、駐車場に車を止めておそるおそるお風呂屋さんへ。第三者から見たら、まるでパチンコ屋さんに来た父娘に見えるだろう。
古くて清潔感のある銭湯
2階に上がり、入口を抜ける。目新しい自動発券機。子供と大人の入浴券を購入。
大人は950円、4才~小学生までは300円。とても良心的な値段である。
水曜平日の17時台。男湯は2人ほどしかお客さんがいなかった。いずれもセミリタイアした60代に見える。
スーパー銭湯に来るときは自宅から「ラメイヘアクレンジング」という美容院で購入している、リンス不要でツルツルな仕上がりになるシャンプーを常に持ってくるのだが、今日は忘れてしまった。ギシギシのシャンプーになってしまうが、今日だけは仕方ない。
浴室内は意外に広い。1992年から30年以上営業しているということだが、古いわりに掃除が行き届いているのか、カビやぬめり感がほとんど感じられない。とても清潔感がある。
お風呂も、2種類の水風呂、寝湯、ジェットバス、電気風呂、サウナ、露天風呂…と何種類も楽しめる構造になっている。「天然温泉源泉かけ流し」といううたい文句も相まって、風呂好きにはたまらないラインナップだ。
「パパ、つめぶろ、はいれるよ!」
水風呂を「つめぶろ」と独特な言い方をする弥生は果敢に水風呂に入った。肩までジャブンと勢いよくつかる。
「弥生…すごいな…」
「すごいでしょ?」
隣にはもう一つの水風呂。手で触るとさらに冷たい。まるで冬に出てくる水道水の温度だ。
「もう一つの水風呂はさすがに入れないだろ、冷たすぎる…」
僕がそう言うと、浸かっている1つ目の水風呂からあがり、すぐに2つ目の水風呂にジャボンと勢いよく入った。
「うわっ!」
僕は驚いてしまった。そんなに激しく入って大丈夫だろうか。
「やよい…つめたくないのか?」
「へいきだよ~!パパ、すごい?」
「うん、凄すぎだよ」
「いえ~い」
ドア顔で水風呂に浸かる、承認欲求が日に日に強くなっているわが愛すべき娘、弥生5才。
彼女の両鼻からは、水っぽい鼻水がしたたり落ちていたのだった。
続く
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