第66話~友人の新居~

家族

人気のとある東京エリア

「うわぁ~すごいおおきいね!」

弥生が見上げて大きな声を上げる。僕も口をあんぐりして一緒に顔を上げた。

「なんだここは…これが東京か」

東京のとある街。タワーマンションが立ち並ぶ。それなのに圧迫感は全くなく、むしろそれらのタワーマンションが解放感を際立たせているような、そんな印象だった。テレビやインターネットでしか見たことがないが、香港を彷彿とさせる景観だった。中国の現地の方に人気が出そう、そう思った。

東京の物価が軒並み上昇していて、底上げしている要因は海外のバイヤーの影響だという。それはそうだ。億ションなんて、僕のような一般日本人には到底手の届かない代物だ。真の富裕層が購入して住むか、もしくは投資用だろう。

そんな豪華なマンションを、大学から20年以上の付き合いのある友人がマンションを購入した。

10代の頃からの親友

大学1年の頃から親交のあったザブングルの加藤さんにそっくりの彼は、僕の憧れだった。

名前は恵(めぐみ)という名前だ。(オトコである。笑)

大学では100人以上のメンバーがいるサークルの長をしていた。それ以外でも交友関係は広く、おそらく1,000人以上は友人がいたのではないか。

そんなカリスマ級の人気を誇る恵だが、何故か僕やまだとずっと一緒に大学生活を過ごしていた。

彼は僕のことを「親友」と言ってくれている。40才になった今もそうである。何故僕のことをそう思ってくれているか、未だに謎である。見た目も普通。社会的地位もそこまであるわけでもないのに。彼は僕のことを買ってくれている。それは嬉しいのだが、もっと付き合うべき友人がいるのではないかと感じてしまうのだ。

彼は就職活動で業界大手の7社ほどから内定をもらっていた。僕はその時点で1社も内定をもらえていなかった。

僕は残り1社、T社という業界最大手の最終面接を控えていた。この会社が不採用となったら、僕はこの業界を諦め、違う道を選択しようとしていた。

そのときに彼から電話をもらったのだ。

「明日、やまだの最終面接だったよな?」

恵の内定の7社のうち、1つはT社だった。彼は最初、N社に1入ろうと考えていた。

「おれN社に内定もらってたけど、やまだがT社受かったら俺もT社行くわ!」

僕は驚いてしまった。

「まじか。恵、お前N社に行きたいって言ってたじゃん」

「同じ会社の方が楽しいじゃん。だからお前がT社なら俺も同じとこ行くよ」

「恵…」

恵のハッパにより、僕は無事に内定をもらい、恵とともにT社に入社した。

彼は同期世代で最速で出世し、僕は13年勤務したのちに退職をした。

タワーマンションで他愛もない会話

マンションのエントランスの、ゲストルーム専用の番号を押しインターホンを鳴らす。すぐに恵の声が聞こえてきた。

「はぁい、どうぞ」

オートロックのドアが開き、エレベーターへ。

「弥生、30階のボタンを押してもらってもいい?」

「はぁい」

1秒間に3階ずつという、10階建てそこそこの賃貸マンションしか住んだことの無い僕には想像がつかないようなスピードでエレベーターが上がっていく。このままだと天井を突き抜けてしまうのではないか?そう思っているうちに、最上階の30階に到着する。

エレベーターを降りると、まるで高級ビジネスホテルの廊下のようなシックな黒ベースの廊下が直線にまっすぐ伸びている。案内図を見てゲストルームへ…

ゲストルームのドアの鍵が空いていた。開いた瞬間に、目の前が真っ青に染まった。

「よう、いらっしゃい」

質の良い黒いカットソーに白いパンツをセットアップした恵が登場した。奥には彼の奥さんが子を抱えて会釈してきてくれ、僕もそれに返した。

「おう、来たよ。しかし…なんじゃここは。めちゃくちゃ見晴らしがいいな」

「すげーよな、ここ」

「うわ…東京スカイツリーが目の前に見える!こういうのが海外の人には人気なんだな。いくらしたんだっけ?」

「2億しないくらいかな?」

「うげー、すげーなお前。他にも投資用マンション10個くらい持ってたよな?」

「10個もないよ(笑)5、6個くらい」

「それでもすごいよ。会社も本社部署に入れたし、順風満帆だよな」

「いや〜そんなことないよ。業界として不安定だし、今後どうなることやらで分からない」

「そうなんだ」

「やまだがいた時よりかなり社内はゴタゴタしてるよ。俺もいつか転職するかもしれないしな」

「そうか…安泰なんて存在しないんだな。常に何か悩みというか、いろんなものを抱えてみんな生きていると」

「間違いないね。20代の頃は楽しい話ばっかだったけどね。俺たちも年とったな(笑)まさかお互いの子供連れてこんな感じでワイワイできるなんてな」

「これはこれで楽しいけどな」

「たしかに」

束の間の時間を楽しむ

恵が用意してくれた缶ビールを開けてお互い乾杯する。ほどなくして、同僚がぞろぞろと何人も入ってきた。恵の新居を祝いに来たのだ。

「パパ〜!見て〜お船が見えるよ〜!」

弥生が、ガラス張りの壁に手を当てて外を眺めている。その可愛らしい景色をアテに、ビールをすする。仲間と分かち合えるこういった雰囲気で飲む酒は、格別に美味い。

僕も恵も、道は違えど、何かしらの悩みを抱えながら、それでも前向きに一歩一歩確実に先へ進んでいる。

安定・安泰・平穏…それぞれが求めているが、実はそんなものは存在しないのはわかっていて、激動の中でのこういったひと時をみな、楽しでいるのである。

続く

やまだ のりお

◆所有資格◆
薬剤師
簿記3級
FP3級
 
◆経歴
前職:東証プライム上場企業 営業職

現職:サービス業 エリアマネージャー
 
第一子誕生をきっかけに転職。
仕事と家族と充実した毎日を過ごしています!
 
資格と経験を活かしつつ
健康・お金・転職・マネジメント
などの情報を発信しています!

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