横浜最後のアトラクション
コスモワールドで絶叫系の「クリフドロップ」を初体験した弥生。
「これのりたい!」と意気揚々とアトラクションに乗り込んだものの、思った以上にスピードが早く、終わってからは恐怖の余韻でビクビクと震えていた。
僕が少しの時間だけハグすると落ち着きを取り戻し、「おなかすいたからおやつたべたい」と普段の調子に戻り少し安堵する。
アトラクションの行列から終了まで1時間以上は費やしたか、あたりはすっかり夕暮れになっていた。楽しかった長女との泊りのお出かけもいよいよ終盤。もの寂しさをおぼえながら、弥生に声をかける。
「じゃあ、そろそろおうちに帰ろうか。まずはロープウェイに乗ろう」
「なぞの、しかくいはこ!」
「そうそう、あの箱ね」
コスモワールドを後にし、ロープウェイが出発しているだろう場所に、なんとなく向かう。人の流れもそっちの方に向かっているので、きっと合っている。
YOKOHAMA AIR CABIN
あのロープウェイは、僕の記憶からするとだいぶ新しい気がする。横浜のこのエリアに遊びに来たのは実に15年ぶりくらいだ。あのような乗り物はなかった。
調べてみると、ロープウエイ、正式名所はYOKOHAMA AIR CABIN(ヨコハマエアキャビン)という乗り物が出来たのが、2021年の4月からということらしい。完成してわずか3年半なのだから、自分の記憶にないのも当然である。
まだ新しい乗り物だ、乗車券を買うのにも行列をなしている。「ご乗車まで30分」という看板が表示されている。
「やよい、30分くらい待つって。大丈夫?」
「30ぷんて、なんびょう?」
弥生にはまだ分の概念がない。
「1,800秒かな」
「ながーい」
「パパとお話していたらあっという間だよ」
「ふーん、まぁべつにいいけど?」
最近、大人びたセリフも口にするようになった。「べつにいいけど」なんて言い回し、女の子が良く使うようなツンデレな表現だ。10年後か20年後、弥生は男性を振り回すような女性になっていくのだろうか。
おしゃべりしたり、携帯で今まで撮った写真や動画を一緒に眺めたりしていると、30分なんて時間は本当にあっという間で、すぐに乗車時間となった。
都会×ロープウェイ
360度見渡せる透明な箱に乗り込む。椅子のような場所に腰かけると、夕に暮れた横浜を空から一望することができた。
「おぉ…」
「パパ、ひとがちっちゃくなってるよ!」
コスモワールドの観覧車ほどの高さはないが、ハッキリと移動していくYOKOHAMA AIR CABINは、また別の感動がある。何台もの車が通っている大きな道路を上から眺められる。大都会にロープウェイという組み合わせが、僕にとっては新鮮だった。
「パパ、どうが、とらせて!」
こどもの最近の主流は、テレビよりもYouTubeだ。「よかったらグッドボタンとチャンネル登録よろしくね」なんてセリフまで丸々覚えてしまう。
そのため動画も好きなようで、僕のiPhoneを奪っては撮影に勤しんでいる。
人間は、思い出を作るために生きている。そのために一生懸命勉強し、働き、お金を稼ぎ、家族を持ち、衝突する。すべて「思い出」のためなのだ。
この一瞬もあっという間に思い出になる。すぐに1か月、1年が経ち、「あの時は楽しかったな」というシーンになってしまうのだ。
娘の、ひたむきにiPhoneをかざして周りの風景を撮影する姿をしっかりと焼き付ける。この思い出が少しでもあせないように。
ロープウェイから幻想的な音楽が流れる。どこか哀愁をただよわせるものだった。気付けば、到着駅の桜木町駅が大きくなってきた。
続く
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