第55話〜妻に気持ちを伝えたい~

家族

夫婦間での会話数が減っていく。これは必然的なのかもしれない。それでも僕は妻が好きだし、愛している。直接言葉を交わしてもそれが伝わらない事が増えていく歯がゆさがある。

「子はかずがい」

子供は、僕のそんな思いを伝えてくれる、救世主であり、天使なのだ。

風邪を引いた妻

「おはよう」

「…おはよう」

朝のいつもの挨拶。僕やまだのりおはいつも家で一番早く起きる。だいたいは5時起きだ。

ついで起きてくるのが、わが愛すべき長女、弥生、5才。ブランケット症候群であり、常に同じタオルケットが近くに無いと落ち着かない。

挨拶に重きを置いている身としては、娘に

  • おはよう
  • ただいま
  • いただきます
  • ごちそうさま
  • おやすみなさい

これを徹底させている。挨拶なくして人間関係の構築無し。極論、挨拶がしっかりできればほぼほぼ人生上手く行くと考えている。

一番遅く起きてくるのが、愛すべき妻、理奈である。

理奈は、正社員でありながら弥生の子育てをほぼワンオペでこなす、スーパーマンである。スーパーマンゆえ、特徴的な部分がある。それは…

「おはよう」

僕が声をかける。

「…」

スーパーマンは、おそらく外国人である。Hello!という声掛けをすれば、Hello!と返事が返ってくるに違いない。

でも僕は日本人である。Hello!という挨拶をするには、英語をマスターしなければならないが、僕は英語をしゃべることはできない。ゆえにスーパーマンに、

「おはよう!」

という事しかできない。でもスーパーマンは英語しか喋られないから、

「…」

という返事しかできないのである。

挨拶は大事である!と口を酸っぱくして伝えている娘、弥生も追随して、

「ママ、おはよう!」

と言う。するとスーパーマンは、

「やよい~おはよう!」

と声高々に返事をするのである。

同じセリフを言っているのに、反応が全く違う。きっとそれは、スーパーマンだからこそ、自分の愛すべき娘の言語は、しっかりと「おはよう」→「Hello!」と脳内変換できるから、返事ができるのである!

いつもと同じノーレスポンス、なのだが…

今日もそんな一日だろう。いつもの朝を迎えようとしていた。

「おはよう」

「…」

妻からの返事。大丈夫、妻はスーパーマンで外国人だからこそ、僕の「おはよう」という日本語に反応できないのである。きっと、何を言っているのか、分からないだけである。

「ゴホ…ゴホ…」

妻が、せき込んだ。それもかなり痰が絡んでいるような咳だ。

ペーパー薬剤師のやまだのりお的に見ると、それは完全な後鼻漏であり、完全なる風邪である。僕がこのタイミングで、

「理奈…風邪大丈夫?」

と聞いたとしても、スーパーマンからの返答はこうだろう。

「…」

でも、僕は妻のことを愛している。妻が不調な時は心が痛む。なんとかして妻を元気にさせてあげたい。元気の源はメンタルだ。何か、妻が元気になる言葉をかけてあげたい。

妻に、労いの言葉をかけてあげたい

弥生を見た。瞬間、僕は弥生に耳打ちした。

「弥生、ちょっとこっち来て」

弥生をドアの向こう側に呼ぶ。ここなら理奈に会話は聞こえない。

「弥生、ママにさ、『ママ、風邪だいじょうぶ?』って聞いてあげて」

「なんで?」

5才児は素朴な疑問を僕に投げかける。

「ママが喜ぶからだよ」

僕はニコッとした。弥生はうん、と大きく頷いた。

2人でリビングに戻る。そして戻るやいなや

「ママ…かぜ、だいじょうぶ?」

弥生は妻に聞いた。

「やよい…どうして?」

「だって…ママがごほごほしているから」

「うん、ゴホゴホしているけど、だいぶ良くなったんだよ。弥生…ありがとうね」

妻からの「ありがとう」。妻が僕へ「ありがとう」と言ってくれたのは、いつだったろうか。

妻、理奈が弥生を抱きしめる。抱きしめられた弥生が、妻の背中越しにチラッと僕を見る。僕はグッドマークをコソッと出す。弥生は笑顔で大きく頷いた。

続く

やまだ のりお

◆所有資格◆
薬剤師
簿記3級
FP3級
 
◆経歴
前職:東証プライム上場企業 営業職

現職:サービス業 エリアマネージャー
 
第一子誕生をきっかけに転職。
仕事と家族と充実した毎日を過ごしています!
 
資格と経験を活かしつつ
健康・お金・転職・マネジメント
などの情報を発信しています!

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