「おとうさん、おかあさん、サンタクロースっているの?」
子供に聞かれたとき、どう答えるか?そんなことは重要ではない。大切なのは、父と母が口を揃えることなのである。父と母が仲が良いこと。これが一番重要である。
あたたかい冬
やまだのりお、7才のときである。
こたつに入って、4才の妹とじゃれあいながらみかんを食べていた。ぼろぼろの社宅に住んでいたが、子供の頃は「綺麗な家」「汚い家」などの概念が特になく、どんな家でも構いやしなかった。平和な家庭があれば、それで。
「のりお。クリスマスプレゼントをサンタさんに頼もうと思うんだ。何がいい?」
やまだのりおの母はキッチンから声をかけてきた。キッチンテーブルに父と向かい合わせで座っている。
「ほら、このチラシを見て。欲しいものあるか?」
渡してきたのは、どこかのおもちゃ屋さんの広告だった。「セール!」の大きな文字が書いてあった。
「サンタさん、何か買ってくれるの!?」
僕ははしゃいだ。「サンタさんからもらえるプレゼント」は、実質この時が初めてだった。
「え〜と、何がいいかなぁ」
僕は心を躍らせながらチラシを眺めた。このおもちゃ屋さんの、好きなものなんでも買っていいんだ…
「…じゃあ、これにする!」
母と父に、チラシを指差して見せた。ファミリーコンピュターの、ボンバーマンというゲームソフトだった。
「ボンマーマンだな、わかった」
父はうなずいた。僕はリビングのこたつに戻った。後ろのキッチンで、両親が何やらヒソヒソと話し合っていた。
…
12月24日の夜、父と母にアドバイスされた。
「のりお、サンタさんに『ボンバーマンほしいです』って手紙を書いたら、サンタさんもわかりやすくて良いんじゃないかな?」
「わかった!」
僕は汚い字で手紙を書いた。
「サンタさんへ。ぼくはボンバーマンのゲームソフトがほしいです。よろしくおねがいします」
と。その手紙を、ベランダの物干し竿にセロテープで貼り付けて就寝した。
…
12月25日の朝。
目が覚めると、枕元には綺麗に包まれたプレゼントが置いてあった。赤い包装に金色のリボン。ドキドキしながらプレゼントを開けると、そこには欲しかったボンバーマンのゲームソフトが入っていた。
「おとうさん、おかあさん!サンタさんがボンバーマンくれた!!やったぁ!!」
「そうかそうか、よかったな」
父は僕の頭をなでた。
ベランダの物干し竿に吊るしていた、降雪でシナシナになった僕のサンタさんへの手紙には、
「いつも良い子にしてるね。来年また来るよ」
というサンタさんからの返事が書かれていた。
穴の空いたクリスマス
3年後
やまだのりおが10才の時である。
12月25日の朝、目が覚める。前日にサンタさんへの手紙は書いていなかった。寝室には、僕と、ボンバーマンをもらって有頂天になっていた当時の僕と同い年の7才になった妹、そして父という3人が寝ていた。
母は、いなかった。
昨晩の12月24日の夜、父と母が隣の部屋で大きな声を上げて言い争っていた。内容は全く覚えていない。
12月25日、母はどこかに出掛けていた。イブの夜に出ていったのか、早朝に出て行ったのかは、わからない。
「…おはよう」
父がぬるっと起きてきた。僕も「おはよう」と返した。
「お父さん、今日はクリスマスなんだね」
「…」
父はしばらく黙っていた。何かを考えていたのだろう。
「のりお、トイザらスに行くか。父さんがクリスマスプレゼントを買ってやる」
「え…サンタさんは?」
「そんなものは、いない」
突然の出来事だった。サンタさんがいないという事実を知った瞬間だった。
「そうなんだ…」
僕は父に従って、父と僕と妹の3人でトイザらスに向かった。
トイザらスには、7才の時にもらったどこかのおもちゃ屋さんの広告に載っていた何倍もの量の数々のおもちゃが立ち並んでいた。
「ほら、好きなおもちゃ選んで良いぞ」
父は僕を促した。
7才の頃の、あのワクワクとドキドキした感覚
両親が僕を見て笑った姿
その思い出がよぎる。
サンタさんがいるか、いないか、もうどっちでもよかった。
現代に戻る
「ねぇパパ。クリスマスプレゼントはマリオのゲームがいいなぁ!」
弥生が僕にねだる。
僕はハッとして我に返る。
「…サンタさんにお願いしてみるよ。良い子にしてたらプレゼントもらえるかもね。弥生はどうかなぁ〜?」
「やよい、いいこだもん!」
娘は口を膨らませた。僕は笑った。
「ねぇパパ、サンタさんてどんなひと?おひげはえてる?」
弥生は聞いた。
「そうだなぁ・・・」
僕はサンタさんの姿を想像した。
続く
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