第35話~なわとび~

家族

子供の心変わり

「パパ、なわとびしたいな」

キッズパークに行こうとさっきまで話していたのに、子供はかなり心変わりがある。好奇心が旺盛の裏返しの言動なんだと、僕は思う。

「いいよ、キッズパークはまた今度になるけど良いかな?」

「うん、いいよ。だってみんなと縄跳びしたいんだもん」

僕はチラッと妻を見る。妻は一人になりたい人間だ。普段土曜日に僕が仕事中にワンオペで弥生に付き合っている。

「ママ、一緒に縄跳びしよう?」

僕は少し緊張しながら妻の返答を待つ。きっと「うーん、ママごろごろしたいなぁ」と言うんじゃなかろうか。

「…いいよ。やよい、今何回くらい跳べるの?」

僕は少し驚いてしまった。妻の前向きな返事。一人時間の確保はもう良いのだろうか?

弥生はパッと表情が明るくなる。両親の気持ちに反して、子供は両親と一緒にいたいのだ。

「わたしね、3かいとべるんだよ!」

「すごいねぇ!」

僕は弥生が実際に縄跳びをしている姿を見たことがない。彼女は一体どんなとび方をするのだろうか。

やっぱり褒めて伸ばす

ラーメン屋から帰るとすぐに、玄関にある3色の縄跳びを弥生は奥から引っ張り出してきた。

「わたしのはピンク色ね!」

ピンクの縄跳びは他の色の縄跳びよりも気持ち小さく、明らかに子供用だと分かるものだ。

「はい、これパパのね!」

青い縄跳びを僕に差し出してくる。「ありがとう」と僕は一言伝えた。

「これは、ママの!」

緑色のは妻の縄跳びらしい。確かに妻の好きな色は緑色である。

弥生が玄関を飛び出して、遅れて僕と妻も出る。

「いくよ~!」

弥生はやる気満々だ。すると、彼女は両腕を大きくぶんぶん肩から振り回した。振り回したかと思うと、ロープが下につくと同時に勢いよくジャンプした。

1回目は成功した。

ロープが再び彼女の膝下までやってきた。彼女はさらに勢いよくジャンプ。

2回目も成功。

もう一度ロープがやってくる。彼女がそれよりも早めにジャンプした。

失敗。

「あーあ…」

具体的指示は片方から

3回は跳べる、と言っていた彼女の言葉とは裏腹に、前跳びは2回で終了した。彼女は下を向いた。

「きれいなジャンプだったよ。やよい、もう1回!」

僕は元気づけた。まずは今出来ていることを褒める。そして「もっとこうすればよくなる」というマネージメント手法と一緒だ。まずは承認欲求を満たして次のステップに進ませるようにする。

「やよい、とってもいいジャンプよ。1回一息ついてからジャンプすると、次また飛べるようになるよ」

具体的なアドバイスは妻から。僕からも具体的に指示すると、きっと弥生は混乱する。僕はモチベーション維持だけに努めた。

「うんうん、そうだよ弥生。次はいけるよ!」

「よーし…」

弥生が再び上を向いた。そしてもう一度チャレンジした。

3回で失敗

「やよい、さっきより跳べてる!」

「うん、跳び方もよくなってる!」

両親からの手厚い声援。子供の心は折れてない。

「もういっかい跳ぶ!」

弥生は再びジャンプする。

4回目で失敗

4回目で失敗

4回目でまた失敗

30回くらい、4回目で失敗しただろうか。弥生の脛はみみずばれになっていて、失敗が蓄積していることを表している。肩で息もし始めた。

「やよい、良い感じ良い感じ。ロープも足の半分は通ってるよ!」

「いけるよ!」

「よ~し…!」

弥生は渾身のチカラをふりしぼった。

「いーち…にー…さーん…しー…ごー…」

記録更新だ。だが彼女はロープを止めない。

「ろーく…しーち…はーち…きゅー…」

足がもつれてきた。もうダメか?

「じゅー…!」

大台を突破!さらに…

「じゅーいち…!じゅーに…!じゅーさん!」

何か月も3回しか跳べなかった彼女が、ついに殻を破った瞬間だった。

「じゅーよん!じゅーご!じゅーろく!じゅーしち!じゅーはち!」

このままいけ!もうすぐ20回!

「じゅーく!にじゅ…」

ぺちん!

縄跳びが弥生の脛を鳴らした。カウント終了の合図だ。

「すごい!!19回も跳んだぞ!」

「やったじゃん弥生~!!」

「ママ―!!」

髪の毛を汗まみれにしながら、弥生はママに抱き着いた。ママもぎゅっと、わが子を抱いた。

僕は無意識に拍手を鳴らしていた。

続く

やまだ のりお

◆所有資格◆
薬剤師
簿記3級
FP3級
 
◆経歴
前職:東証プライム上場企業 営業職

現職:サービス業 エリアマネージャー
 
第一子誕生をきっかけに転職。
仕事と家族と充実した毎日を過ごしています!
 
資格と経験を活かしつつ
健康・お金・転職・マネジメント
などの情報を発信しています!

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